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呉医療センター・中国がんセンター 副院長 森脇克行

医師のプロフェッショナリティーとシミュレーション・トレーニング
呉医療センター・中国がんセンター
副院長
森脇克行

第16回呉クリニカルフォーラム(2010年7月31日)で、新しく発足した呉医療技術研修センターを紹介しました。呉医療技術研修センターの特色は、高度なシミュレータを備えていることです。そこで“医師のプロフェッショナリティーとシミュレーション・トレーニング”について、研修医の研修という視点から考えてみました。

ミラーのピラミッド

(図1) Miller's pyramid - Millerのピラミッド

医師の臨床能力を評価する“Millerのピラミッド”という概念(図1)があります。これによると医師の臨床能力には

知識として知っている(knowledge)
どのようにするか知っている(competence)
どうするか見せることができる(performance)
そして実際に行うことができる(action)

という4段階があります。Millerのピラミッドは、医師のプロフェッショナリティーの4段階を表していると考えることもできます。研修医としては、知識だけあればよい場合もあるでしょう。
しかし、実際に遂行を要求される手技もあります。そして将来、医療の第一線で活躍するために、研修医時代からトレーニングしておくべき技能もあります。それらについて具体的に見ていきたいと思います。

研修医に求められる医療技術は?

英国卒後医学教育トレーニング委員会では、病院勤務の医師がマスターすべき18種類の手技を挙げています。これらの手技の中で、病院勤務医として遂行能力が要求されることの多い手技は、中心静脈ラインの挿入、腰椎穿刺、胸腔穿刺・吸引、腹腔穿刺・吸引、胸腔ドレーン挿入の5つであるという報告があります(Connick, RM et al. BMC Medical Education 9: 2, 2009)。これらの手技を臨床の現場で患者を危険に曝して練習することは倫理的に許されません。まず知識や映像で学び、シミュレーション・トレーニングを行った上で、指導医のもとに行うべきです。呉医療技術研修センターは、これらの手技をトレーニングできる設備とプログラムを準備しています(図2)。

(図2)中心静脈穿刺シミュレーション

早く有能な医師として技能を得るようになるためには?

早く有能な医師として技能を得るようになるためには、臨床の機会だけを待っているだけでは不十分です。例えば、内視鏡手術の技術の上達には、シミュレーション・トレーニングが極めて有効であることが報告されるようになりました(Larsen CR, et al. BMJ 338:b1802, 2009)。最近、リアルな内視鏡手術シミュレータが開発されトレーニングができるようになったことがその背景にあります。呉医療技術研修センターでは、ガデリウス社製LapVRというシミュレータを装備しトレーニングできるようにしています(図3)。

(図3)内視鏡手術シミュレータによるトレーニング

医療スタッフのチームリーダとして危機管理ができる医師になるためには?

(図4)クリティカルケアにおけるチーム医療のトレーニング

医師のプロフェッショナリティーに求められることに、医療チームリーダとしての危機管理行動力があります。危機管理行動力の向上にもシミュレーション・トレーニングが大変役立つと考えられます。とくにアメリカ心臓協会ACLS(Advanced cardiovascular life support)コースは、心肺蘇生や緊急心血管ケアのエビデンスに基づくアルゴリズムだけでなく、クリティカルな状況に置けるチーム・ダイナミクスを学ぶことができます(ACLSプロバイダーマニュアル, 2007)。そのほか日本救急医学会のICLS(Immediate cardiovascular life support)コース(図4)や院内ICLSコース(予定)も同様な目的で有用です。

医師が、質の高い安全な医療を提供するためには、正しい知識や高いレベルの技能の修得が必要です。シミュレーション・トレーニングは技能修得の強力なツールを提供します。呉医療技術研修センターのシミュレーション・トレーニングコースへの積極的参加をお勧めします。

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