肺がんについて -外科の立場より-このページを印刷する - 肺がんについて -外科の立場より-

担当診療科

肺がんの発生頻度や死亡率は?

肺がんの発症や死亡率は年々増加しています。肺がんは世界的に最も致死的である「がん」と言われています。

肺とは?

胸の中には肋骨や横隔膜で仕切られた胸腔という左右の空間があり、その中で肺は大きく膨らんでいる臓器です。右肺は3つ、左肺は2つの肺葉(はいよう)に分かれています。気管が左右の気管支に分かれて肺に入る部分を肺門、肺門以外の肺の本体部分を肺野といいます。肺は、体の中に酸素を取り入れ、いらなくなった二酸化炭素を外に出す働きをしています。

そもそも「がん」「肺がん」とは?

腫瘍とは細胞が異常に増えてかたまりになったもので、いわゆる「できもの」です。その中で放置しておくと細胞が無制限に増殖し、切除しても再発したり、他の臓器に転移したりするものを悪性腫瘍と呼びます。悪性腫瘍の中には上皮(例えば胃の胃粘膜上皮や肺の肺胞上皮など)といわれる部分から発生する「がん」や、筋肉や骨から発生する「肉腫」、血液から発生する「白血病」などがあります。肺自体から発生するがんを「原発性肺がん」と呼びます。 ちなみにしばしば外来で患者さんに聞かれることがありますが、「がん」はすべて悪性腫瘍であり、良性の「がん」は存在しません。

なお、肺には全身の血液が酸素を取り込むために戻ってくるため、その血液の流れに乗って他臓器のがん(食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、乳がん、その他何でも)が転移してくることがあります。それを「転移性肺がん」と呼びますが、これは「原発性肺がん」と異なり、持ち合わせた性格は元のがんのままです。よって治療は元のがんの種類に基づきます。なおこのホームページでは「原発性肺がん」を「肺がん」として説明しています。

肺がんの治療法は?

一般的ながんの治療法を以下の図に示しますが、がん細胞のタイプ、がんの大きさや広がり(ステージ、進行度)、患者さんの状態などから総合的に判断し、最終的には患者さんとともに決めていきます。

肺がんのがん細胞のタイプとは?

「肺がん」と一口に言っても、実は様々なタイプが存在します。まず非小細胞肺がんと小細胞肺がんの2つのタイプに分けられます。全体の90%程度は非小細胞肺がんで、小細胞肺がんは10%程度の頻度です。外科治療の対象となる肺がんは非小細胞肺がんのことが多いです。一方で小細胞肺がんは、非小細胞肺がんと比べて増殖速度が速く、転移や再発をしやすい腫瘍であるため、治療方針が大きく異なり、一般的には化学療法(抗がん剤)を中心に治療を行うことが多いです。

肺がんのステージとは?

がんの大きさや広がりは世界共通のステージ分類(進行度)によって分類されます。ステージによって治療の方向性が決まってきます。ステージ分類の詳細はかなり複雑ですので、おおまかに分けた表を以下に示します。

肺がんの手術は?

以下に肺がんに対する手術の考え方を記します。

1) 手術を受けられる患者さんが気になることの1つは、どんな傷が胸に生じるかということだと思います。従来呼吸器外科領域では開胸手術が広く行われていましたが、現在では胸腔鏡手術が普及しています。当科でも積極的に導入しており、胸の横に設けた3-4箇所の小さな傷で手術を行います。また胸の中の操作において、当科では4K3D内視鏡システムを用いた胸腔鏡手術を取り入れ、安全性の高い体に負担の少ない手術を目指しています。

2) 肺がんの根治を目指した標準術式(肺癌診療ガイドライン)は、肺葉切除術+所属リンパ節郭清術です。近年CTやPETなどの画像技術の進歩により早期肺がんが多く発見されるようになり、そのような際に肺機能温存を目指した縮小手術(肺部分切除や肺区域切除)を選択することも増えてきました。一方で標準治療が困難な場合には個々の患者さんにあった術式を考慮します。専門医が集う合同の検討会で治療法の選択を吟味し、患者さんには十分に説明・ご理解いただいた上で手術を受けていただきます。

3) 当科ではクリニカルパスを導入しており、患者さんは手術前におおよその経過を知ることができます。ご高齢の方や肺機能の低い患者さんらを中心に合併症発生への対策として、術前外来から包括的呼吸リハビリテーションを行っています。入院中は合併症防止と早期退院を目指し、スタッフ一丸となってお手伝いします.

手術のあとの治療は?

がんの進行度合いに応じて、追加の化学療法(抗がん剤)を行うことがあります。手術が終了し退院していただいたあとに、最終的な病理結果(顕微鏡での検査結果で、リンパ節転移の有無なども含めたもの)を退院後初回の外来(通常3週間程度あとになります)でお伝えして、患者さんと相談します。ガイドライン上はステージIB以上が対象となりますが、肺がんのタイプや患者さんの術後の回復状態なども考慮して決めていきます。

当院の手術後の成績は?

原発性肺がんに対する手術成績(手術から再発無く経過する患者さんの割合; 2009年4月から2021年3月までの非小細胞肺がん完全切除例 928例)を以下に示します。なお2020年度は109例の原発性肺がんに対する手術を行いました。