膵がん
担当診療科
膵臓癌の疫学、早期発見と集学的治療
膵がんについて
膵臓癌は予後不良な難治性癌と考えられています。しかし、近年の抗がん剤治療と外科治療の進歩により、その治療成績は向上しています。2010年の本邦における膵癌5年生存率は約7%で、なかでも切除可能例では20%でした。しかし、近年その成績は向上し、当院での切除可能例の5年生存率は、50%(2人に1人は5年以上生存可能) 近くまで向上しています。さらに、切除不能例においても使用できる抗がん剤が豊富になっており、抗がん剤が著効する場合もあり、膵癌だからといって、すぐに諦めることはありません。
膵がんの早期発見
膵臓癌は悪性度が高く早期膵癌という概念はありません。敢えて言うなら根治する(完全に治癒する)可能性が高い癌があります。塊をつくる前段階である膵管上皮内癌(Stage0)ではほぼ100%、Stage1(膵蔵の中に留まる)のなかで10mm以下のものは80%が根治すると考えられています。これら以外でも根治する症例もありますし、切除可能(Stage2と3の一部)であれば、先述のように長期の予後が期待できます。よって、切除可能な状態で発見する事が重要となります。
以下のかたは必ず膵癌のチェックを行ってください!!
- 新規に糖尿病となった方(特に高齢者)
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糖尿病が急激に悪化した方(特に高齢者)
糖尿病の症状は口渇、多飲、多尿、そして体重減少などです。 - 背部痛(自発的な痛みで継続する。背中を丸めると緩和し仰向けで増悪)
- 上腹部痛(数日の胃薬内服で改善しない)
- 下痢の継続、理由の不明な体重減少、長引く食欲不振
膵がんをみつけるための検診(腹部超音波検査、MRCP、PET-CTなど)を毎年受けましょう!! 特に50歳を超えたら!!
- 膵臓癌は、無症状で発見することが重要です。血液検査だけでは発見が困難なため画像検査が必要です。検査として、腹部超音波検査、MR胆管膵管撮影(MRCP)、造影CT、PET-CT、超音波内視鏡検査があります。膵癌のリスクを下記に述べますが、膵癌には肺癌(喫煙)、胃癌(ヘリコバクタピロリ菌)、食道癌(喫煙、飲酒)、肝臓癌(慢性肝炎)におけるような顕著なリスク因子はありません。リスクのあるなしによらずどんな方にも発症します(このため、他癌は不摂生しがちな男性に多いが、膵癌の発症率に男女差はありません。下記のリスクがないひとも毎年の定期的な検診をお勧めします。
- 膵癌は例外を除き、50歳以上から徐々に出現し年齢とともに発症率が高まります。特に65歳以上は急激に増加します。定年して会社での検診が終わったあたりからが最も注意が必要です。
- 膵癌のリスクとして、膵癌の家族歴があります。身内に膵癌がいるかたは注意が必要です。一親等(両親・兄弟姉妹・子供)に1人膵癌の方がいるとリスクは通常より4.5倍(生涯発がん率6%)、2人で6.4倍(8~12%)とされています。心配な方は、遺伝子診療科(大学病院などに設置)や膵臓疾患専門医に相談ください。
- 膵癌のやや弱いリスク因子として、他に糖尿病、肥満、喫煙、多量飲酒ながどあります。生活習慣を正し、適宜検診を受けてください。
- 検査で膵のう胞(水のたまりの袋)が見つかった方は、発がんリスクが高いとされ、病院にて定期的にフォローされています。
膵がん発見のための検査
腹部超音波検査
最も簡便、安価、そして非侵襲的で、膵蔵だけでなく、肝臓、胆道、腎臓、膀胱の癌の拾い上げが可能です。弱点はすべての膵臓をくまなく観察することができないことです(観察できない部位がある)。
MRCP
膵臓、胆嚢、胆管に特化した検査で、腹部超音波検査より膵評価には有用です。主膵管を立体的に評価でき膵管上皮内癌の発見にとくに威力を発揮します。腫瘤の描出は、造影CTや超音波内視鏡検査に劣りますが、CTによる被曝や造影剤アレルギーの心配がなく、膵臓の全域を観察でき最も理想的な検診の検査です。
造影CT
通常診療で膵疾患を強く疑う場合には選択されます。しかし、造影剤に対するアレルギー反応や点滴投与という煩雑さがあり、検診として施行している施設はほとんどありません。
超音波内視鏡検査
内視鏡の先端についた超音波で膵臓により近づいて詳細な観察が可能で、造影CTやMRCPで描出できない膵癌を発見できる場合があります。しかし、どこでもできる検査ではないため、膵胆道疾患の診断に力を入れている施設の検診でオプションとして施行されています。
PET-CT
全身の癌のチェックとして補助的に使われます。しかし、20mm以下の膵癌では診断率が下がるといわれ、MRCP、造影CT、そして超音波内視鏡にはかないません。しかし、多くの検診センターでは、腹部超音波検査のみであるため、PET検査の追加が癌発見のきっかけになる可能性があります。
MRCPを契機に発見された膵上皮内癌(根治例)
超音波内視鏡検査で発見された10mmの膵癌(根治例)
膵がんに対する集中的治療
- 膵がんに対する治療法は、①手術、②化学療法(抗がん剤治療)、③放射線治療の3本柱です。2つ以上の治療法を組み合わせて、より高い治療効果を得る「集学的治療」が必要です。
- 発見時に切除(手術)可能な膵がんは、全体の約3~4割です。約6~7割の方が切除不能膵がんの段階にあり、全体の約半数が肝臓や肺への遠隔転移がある膵がんで発見されています。
- 切除可能膵がんに対しては、まず術前化学療法を6週間行い、その後に根治手術を行い、術後補助化学療法(内服薬)を1年間行います。
- 切除可能境界膵がんに対しては、強力な術前化学療法を3ヶ月間行った後に根治手術を行い、術後補助化学療法(内服薬)を1年間行います。
- 切除不能膵がんに対しては、化学(放射線)療法を6か月以上行って、治療が奏功して切除可能となった患者さんに根治手術を行います。
膵がんに対する集中的治療
- 膵臓はおなかの中の最も奥の背中側にある臓器で、門脈より右側の膵頭部と左側の膵体尾部に分けられます。奥が深くて周囲に重要な臓器や大事な血管があり、解剖が複雑なため手術が難しいとされています。
- 膵頭部の膵がんに対しては膵頭十二指腸切除術、膵体尾部の膵がんは膵体尾部脾切除術、両方におよぶ膵がんには膵全摘出術を行います。
- 当院では膵がんを完全に取りきるために積極的に血管合併切除を行っています。膵頭十二指腸切除術の56%に門脈合併切除を行い、切除可能境界膵がんには腹腔動脈や肝動脈などの動脈合併切除を行っています。
- 膵体尾部の膵がんに対しては、傷が小さくて体に優しく術後の回復が早い、腹腔鏡下膵体尾部脾切除術を行っています。
膵頭十二指腸切除後の再建
- 当院は膵頭十二指腸切除術の際に、胃を全部残す幽門輪温存術式を行っています。
- 膵臓と消化管の再建は膵胃吻合Blumgart変法を開発し行っています。
- 当院での膵胃吻合再建93例の術後膵液瘻発生率は8.6%で、全国平均に比べて極めて低率です。
当院における膵切除症例数と術式
- 当院は日本肝胆膵外科学会の肝胆膵外科高度技能修練施設に認定されています。2020年は肝胆膵がん手術98例(腹腔鏡率41%)、高難度肝胆膵手術59例でした。
- 膵切除術全体の症例数は10年前の年間約20例から最近5年間は年間35例以上に増加しています。腹腔鏡下膵体尾部切除術も増加しており、これまでに52例に行い、これは広島県ではトップレベルの症例数です。
- 膵全摘出術は22例に行い、術後は強化インスリン療法と膵酵素(リパクレオン)内服により良好な生活の質を得ています。
当院における膵がん外科切除98例の長期成績
- 当院では2015年10月から2021年9月までに膵切除術を206例に行い、膵頭十二指腸切除術112例、膵体尾部切除術76例、膵全摘出術18例でした。
- 膵がんに対して手術を行った98名の患者さんの5年累積生存率は52%でした。再発のない5年累積生存率は40%でした。
- 難治がんと呼ばれた膵がんは、手術技術と集学的治療の進歩により、手術を含めた最新の治療を行った患者さんの5割が長期生存し、4割が治る癌となりました。