前立線がん・膀胱がん
担当診療科
腎がん
診断について
腎がんの典型的な症状として、血尿、腹部腫瘤、腰背部痛が知られていますが、現在診断される腎がんの70%以上は検診のエコーなどで発見されています。腎がんでは無症候性顕微鏡的血尿(尿潜血とほぼ同じ)が約40%に見られ、血尿の精査で施行するCTや超音波検査で見つかることも少なくありません。偶発的に見つかったがんの多くは小さな腫瘍であるため、症状があって見つかる腎がんより予後がよいことが知られています。ほとんどの場合、造影CTで診断可能です。
治療について
手術療法
転移のない腎がんの標準治療です。手術には腎摘除術と腎部分切除術があり、それぞれの手術に開腹手術と腹腔鏡手術があります。一般的に腎を丸ごと摘出する腎摘除術よりも、腎部分切除術の方が、残った腎機能が良いことが知られています。また腹腔鏡手術の方が開腹手術に比べて、傷が小さく、体へのダメージが小さいと言われています。
腫瘍の大きさ、位置により最良と思われる術式を選択しますが、当院では7㎝以下の腎癌のほとんどを腹腔鏡下に部分切除しています。
腎摘除を行う場合でも、可能な限り腹腔鏡手術を選択し、拡大摘除が必要な場合は開腹手術を行っています。
薬物療法
一般的に、転移のある腎がんや切除不能な腎がんに対して用います。薬剤には分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などがあります。腫瘍の組織型、腫瘍の進行度、患者さんの全身状態に合わせて最も良いと思われる薬剤を選択します。
治療法の選択について
腎がんに対する放射線治療や抗がん剤は一般的に有効性は乏しいと言われており、基本的には手術で摘除するのが第一選択になります。転移のない腎がんであれば、可能な限り手術を行います。当院では積極的に腎部分切除を選択しています。転移がある場合には、腎がんの摘除に加えて、転移巣の切除も検討します。転移巣の切除が困難の場合には薬物治療を行います。
腎盂尿管がん
診断について
症状は血尿が最も多く、75%以上に認められます。次に多い症状は側腹部痛で約30%です。また、検診のエコーなどで水腎症(腎臓の腫れ)を指摘され、偶発的に見つかるケースもあります。診断には造影CTなどの画像検査や後述する逆行性尿路造影、尿細胞診検査を行います。
逆行性尿路造影
基本的には外来で行います。尿道から内視鏡を膀胱内に挿入し、さらに尿管の中にカテーテルを挿入します。カテーテルから造影剤を注入し、腎盂や尿管の形態を評価します。がんが存在する場合には、虫食い状に欠損します。また、カテーテルから出てくる尿を採取し、尿細胞診検査を行います。これが陽性であれば、がん細胞が存在するという確定診断が得られたことになり治療に移ります。尿細胞診は腎盂・尿管がんの35-80%を検出できると言われており、がんの悪性度が高くなればなるほど検出率も上がります。
治療について
手術療法
腎盂尿管がんは尿路(尿の通り道)にできる腫瘍なので、診断時にすでに多発性に腫瘍が広がっている可能性があります。そのため、腫瘍がある側の腎臓と尿管を一塊にして全摘を行う腎尿管全摘除術が一般的です。当院では、腹腔鏡下での手術を積極的に行っております。腎臓は左右に1つずつあるため片方の腎臓を摘出しても、もう一方の腎臓が正常に機能すれば生活上の制限はほとんどありません。ただし手術前から腎機能が悪い人は、術後に透析導入になることもあるため注意を要します。そのような場合、ケースバイケースではありますが、腫瘍だけを取り除く部分切除も選択肢になります。
薬物療法
初診時から転移のある場合や術後に転移が出現した場合には、化学療法による治療を行います。化学療法の効果が乏しくなってきた場合には、免疫チェックポイント阻害薬を使用することもあります。腫瘍の組織型、腫瘍の進行度、患者さんの全身状態に合わせて最も良いと思われる薬剤を選択します。
治療法の選択について
転移のない腎盂尿管がんに対しては、基本的に手術を行います。腎尿管全摘が標準術式です。転移がある場合には、まずは化学療法による腫瘍の縮小を図ります。化学療法により転移巣の縮小が見られた場合には、腎尿管全摘除を行うこともあります。いずれの治療も患者さんの全身状態を考慮して決定します。
膀胱がん
診断について
初期に多くみられる症状は血尿です。肉眼で確認できる血尿のこともあれば、検診ではじめて確認できる程度の血尿(尿潜血)のこともあります。診断には膀胱ファイバーで直接腫瘍を確認することが必要です。検査は数分で終わります。
膀胱がんの診断後、MRIやCTなどで腫瘍の深達度や転移の有無を評価しますが、確定診断は後述するTUR-BTという手術で行います。TUR-BTでは、内視鏡で腫瘍を削り取り、摘出した組織片を顕微鏡で確認し、膀胱の筋層まで腫瘍が浸潤していないかを評価します。筋層まで浸潤していなければ非浸潤がん(浅いがん)、浸潤していれば浸潤がん(深いがん)と診断されます。そのどちらと診断されるかにより、後の治療法が大きく変わってきます。
治療について
手術療法
TUR-BT:全身麻酔あるいは腰椎麻酔をかけ、尿道から内視鏡を挿入して膀胱腫瘍を削り取ります。腫瘍の大きさと個数により数分で済むこともあれば、1時間を超すこともあります。術後は1~3日間尿道カテーテルを留置し、入院期間は1週間前後です。術後しばらくは膀胱刺激症状(血尿、頻尿、排尿時痛)があることが多いです。
膀胱全摘除術:腫瘍が筋層まで浸潤していた場合は、TUR-BTでの根治は期待できませんので、膀胱を全摘する必要があります。当院では積極的に腹腔鏡手術で行っております。膀胱を全摘した場合、尿を貯める臓器がなくなってしまうので、尿路変向術(尿の出口を作成する手術)が併せて必要になります。尿路変向術には、尿を貯めることができる方法とできない方法に分かれます。前者は回腸新膀胱と呼ばれる方法で、小腸を切り取って袋状に形成し、残った尿道に繋ぐやり方です。後者は回腸導管と呼ばれる方法で、集尿袋を体に貼り付ける必要があります。どちらの方法も一長一短あるので、個々の患者さんの状態により決定します。膀胱をどうしても摘除したくない場合には、膀胱部分切除術や放射線療法を行い、膀胱温存を行うこともありますが、膀胱全摘に比べ根治性は劣ります。
薬物療法
BCG膀胱注入療法:非浸潤がんの再発予防目的や非浸潤がんの一つである膀胱上皮内癌の治療目的に使用されます。BCGという弱毒化した結核菌を膀胱内に注入する治療で、80~90%でがんが消失します。実際の治療法は、尿道口(尿の出口)から細くて柔らかいカテーテルを膀胱内まで進め、カテーテルからBCG薬液を膀胱内に注入します。1~2時間程度、排尿を我慢し、その後尿瓶に排尿します。週に1回、外来通院で、計6~8回行います。合併症としては、30~50%に膀胱刺激症状(尿が近い、尿が我慢できない、排尿時に痛みがある)、血尿(15~30%)、発熱(20%)、膀胱容量の低下(0.1~1.0%)などの症状が出現すると言われています。
化学療法、免疫チェックポイント阻害薬:転移がある場合や切除不能の場合に選択される治療法です。第一選択として用いられるのは、ゲムシタビンとシスプラチンを併用するGC療法です。腎機能が悪く、シスプラチンの投与が困難な場合には、カルボプラチンで代用することもあります。GC療法では、約50%にがんの縮小が見られ、約10%はがんが消失します。がんが小さくなり、手術可能になった場合や転移巣が消失した場合には手術も考慮します。GC療法は4週間を1コースとして繰り返し行います。
GC療法が無効となった場合には、次治療としてGP療法(ゲムシタビンとパクリタキセルの併用)や免疫チェックポイント阻害剤であるキイトルーダ(ペムブロリズマブ)が選択肢となります。
治療法の選択について
膀胱ファイバーで膀胱がんを認めた場合、まずはTUR-BTを行います。腫瘍が筋層まで浸潤していなければ、そのまま経過観察を行うか、BCG膀胱注入療法を行います。筋層まで浸潤していた場合には、膀胱全摘が標準治療です。術後の再発率を軽減させるため、手術前後に化学療法を行うことがあります。膀胱全摘を希望されない方には、膀胱部分切除や放射線治療を行うことがあります。診断時から転移がある患者さんや、術後に再発を認めた患者さんに対しては、化学療法を行います。
前立腺がん
診断について
初期にみられる症状はありません。そのため、検診での早期発見が大変重要になります。PSAという腫瘍マーカーを測定することで、がんの疑いがあるか判定できます。採血で簡単に測定できます。PSAが高値であれば、MRI検査を行いますが、確定診断には前立腺針生検が必要です。当院では一泊二日で行っています。肛門からエコーを挿入し、前立腺を10か所生検します。所要時間は10~15分程度です。前立腺癌の確定診断後、CTや骨シンチ検査を行い、転移の有無を調べます。
治療について
手術療法
転移のない前立腺がんに勧められる治療法です。当院では腹腔鏡下に行っています。前立腺を全摘して、膀胱と尿道を繋ぎ合わせます。この術式の最大の合併症は、尿失禁と勃起不全ですが、当院では積極的に神経を温存し、それらの予防に取り組んでいます。入院期間は10日前後です。
放射線療法
手術と同じく、転移のない前立腺がんに勧められる治療法です。当院では強度変調放射線治療(IMRT)を行っています。これにより合併症を軽減しながら根治性を高めることができます。治療は通院で行い、終了までおよそ2か月間かかります。
薬物療法
転移のある前立腺がんや、手術や放射線治療を受けたくない方に行う治療法です。一般的にホルモン療法と言います。精巣などから分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)は前立腺がんの増殖を促進するので、これをブロックします。皮下注射と内服薬の併用で行われることが多いです。ホルモン療法が効かなくなった場合には、化学療法を行うこともあります。
治療法の選択について
転移のない患者さんには、腹腔鏡手術を勧めています。手術を受けたくない方には放射線療法を提示します。どちらも希望されない方はホルモン療法を行っています。転移のある患者さんには、ホルモン療法を直ちに開始します。経過が良好な場合には、手術や放射線治療を追加することも検討します。
精巣がん
診断について
多くの場合、痛みを伴わない陰のうの腫れで気づきます。転移による症状(腹痛、腰痛、息切れ、咳など)で発見されることもあります。
CT、MRIなどの画像検査と、腫瘍マーカー(AFP、HCG、LDH)採血により診断しますが、確定診断のためには後述する高位精巣摘除術が必要です。摘出した腫瘍を病理学的に検査し、その組織型(セミノーマか非セミノーマか)によって治療方針を決定します。
治療について
手術療法
高位精巣摘除術:組織型の確定診断のために必要な手術です。鼠径部を切開し、精巣および精索を一塊にして摘出します。入院期間はおおむね1週間以内です。
後腹膜リンパ節郭清術:後腹膜リンパ節(腹部大血管周囲のリンパ節)に転移を起こす可能性が高い場合や化学療法後にリンパ節転移が残存する場合に行うことがあります。当院では、腹腔鏡での手術を行っております。
放射線療法
セミノーマでは放射線治療が特に有効で、Ⅰ期のセミノーマの再発予防、Ⅱ期のセミノーマの比較的小さなリンパ節転移に対し行うことがあります。
薬物療法
精巣がんは化学療法の効果が非常に高いとされ、転移のある場合でも化学療法により根治が期待できます。複数の作用の異なる抗がん剤を組み合わせて治療を行います。当院ではBEP療法、EP療法、TIP療法、GEMOX療法などを行っております。抗がん剤投与を行うと、数年間正常な精子が作れなくなったり、精子ができなくなる可能性があります。そのため、子供を望んでおられる患者さんには治療前に近隣の医療機関に紹介し精子の凍結保存をおこなって頂きます。