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担当診療科

舌癌の治療について

耳鼻咽喉科・頭頸部外科では頭頸部の脳脊髄と頸椎を除くすべての固形癌の治療を行っています。これらの中で代表的な癌である舌癌について取り上げます。

疫学

舌癌は癌全体の1.5%を占め、男女比は2:1で、50~60歳代に多いとされていましたが、近年は高齢化に伴い好発年齢はもう少し高くなっていると思われます。
誘因としては不良歯牙、不適合義歯などによる慢性の物理的な刺激が指摘されていますが、癌の前段階としてそれらの刺激による白斑症を経て舌癌になると考えられています。
その他の前段階として硬結(しこり)を伴う口内炎様の潰瘍や発赤も挙げられます。

好発部位

舌癌の生じる部位としては舌の側縁がもっと多く全体の8割を占めますが、舌下(舌の下面)、舌背(舌の上)がそれに次ぎ、舌尖(舌の一番前)は稀です。

症状

症状としては腫瘤や潰瘍形成に伴う痛みですが、腫瘤が大きくなると舌の運動障害による呂律困難や嚥下(飲込み)障害が生じます。

診断

癌の診断は最終的には病理組織検査によりますが、採る場所によっては癌の診断が得られず、前癌病変と診断される場合もあり、当科では切除により舌の機能的な障害が軽微と考えられる病変については前癌病変が疑われる病変も含めて基本的に切除を行い、それらを病理組織検査により診断する方針をとっています。
舌癌の舌ならびに周囲臓器への進展を評価するためには造影剤を用いたMRIを行い評価しますが、癌の進行に伴い頸部のリンパ節への転移、さらには肺を含めた遠隔臓器への転移が認められることもあるため造影剤を用いたCTやPET-CT検査で病変の広がりを評価して、病期の診断を行います。
病理組織型のほとんどが扁平上皮癌ですが、腺癌なども稀にみられます。

治療方針

舌癌を含め口腔(口の中)の癌の治療の基本は癌の切除となります。
舌癌は癌の大きさや進展範囲によりT1からT4に分類されますが、それにより舌癌自体に対する切除範囲が決まります。また、頸部のリンパ節の転移の有無や遠隔臓器への転移の有無を考慮して手術時の頸部のリンパ節の郭清(転移したリンパ節を含め領域のリンパ節を取り除く手術)や術後の抗癌剤や放射線治療の要否など決定します。
舌癌自体に対する治療は図に示した様に切除範囲に対して再建(切除部の組織充填)の要否が異なり、切除による組織欠損が小さい場合にはPGAシートという上皮化を促すシートで被覆するだけで終わるものもあります。
切除範囲や再建の要否、再建内容により術後の嚥下・構音障害の程度が変わることになります。

当科での治療トピックス

手術侵襲をいかに軽減するかということが、その後の回復や後治療において重要な課題となりますが、高齢化の進んだ呉医療圏においてはその課題がより重要となります。
舌癌の再建では主に筋皮弁といわれる組織が使用されますが、筋皮弁は血管がつながった状態で比較的近い部位から移動させる有茎筋皮弁と筋皮弁の栄養血管を頸部の血管につなぐ遊離筋皮弁に分けられます。
一概にはいえませんが、前者の方がより短時間で行えるため低侵襲となりますが、再建組織の量に限界があり、より大きな欠損においては後者を選択することになります。
有茎(筋)皮弁の代表的なものは、前胸部の皮弁であるDP皮弁や大胸筋皮弁が挙げられ、主に舌半切までの再建に用いられますが、舌の3分の1までの再建において当科では頤下(顎の下)筋皮弁を積極的に使用しています。
有茎筋皮弁の再建を含めた手術時間は大胸筋皮弁で平均3~4時間ですが、頤下筋皮弁では平均2時間でより低侵襲の手術が可能です。
頤下筋皮弁を用いた再建は全的にみてもあまり多くはありませんが、その理由としては頸部のリンパ節転移がある場合には使用できないことと再建を自科で行える施設が少ないことが挙げられると思われます。

頤下筋皮弁のデザインと手術終了時の写真

術後

 

一方で遊離(筋)皮弁による再建は形成外科の支援のもと行われますが、代表的なものに舌半切弱までの再建に用いられる前腕皮弁や舌半切強までの再建に用いられる外側大腿(筋)皮弁、さらには舌亜全摘~舌全摘に用いられる腹直筋皮弁があります。
通常、切除操作が終わったのちに形成外科により再建組織の採取が行われますが、当科では手術時間の短縮のため、形成外科と同時進行で手術を行い摘出と同時に再建が開始されるため平均の手術時間は6~7時間と短時間で手術を行っています。

まとめ

舌癌の治療においては癌の大きさがそのまま手術後の機能障害に結びつくため、他の癌腫と同様いかに小さな状態で癌を発見するかが重要となります。
幸いなことに舌の大部分はご自身で見ることも触ることも可能で、癌の早期発見にはより適した部位といえます。
舌の痛み(中でも左右に限局したもの)、舌の口内炎、舌の潰瘍などがある場合には、まずその部位にしこりがないかを触って確認し、しこりがある場合にはなるべく早く病院を受診していただくことをお勧めします。また、しこりがない場合でも1か月以上痛みが続く場合も受診をお勧めします。

(文責:耳鼻咽喉科・頭頸部外科 立川隆治)